満足を得られる咀嚼を目指して。
咀嚼と咬合の真実
咬合には各種の役割があるが、もっとも患者の体感できることは咀嚼機能である。咀嚼には口腔内を消化管の一部として用いる重要な要素がある。学問的には咀嚼の評価は種々の方法があるが有名なものは咀嚼効率である。代表的なものは生米を咀嚼させて如何に効率よく粉砕出来ているかという方法であった。しかし、その効率で表現する咀嚼というものが、患者満足度ということになると、残念ながら異なっている部分が多い。というのは、口腔内に存在する歯は32 本であるが、それぞれ役割が異なっている。前歯(切歯)・犬歯・小臼歯・大臼歯などそれぞれの歯種にはそれぞれの役割が与えられ、その役割に応じた形態を持っている。
補綴には、このそれぞれの役割を目指して形態や機能を活かすような方法がある。歯種それぞれの機能を活かすのは形態だけではなく顎機能も大きな関連がある。従って顎機能を考慮することも同時に必要な事である。また咀嚼に関する目的を効率だけに注目しすぎて歯周組織に咬合性外傷を引き起こしてしまう症例も多い。このような間違った咬合の概念によって歯周組織や顎堤が破壊されるようなことのないようにすることも非常に重要なことである。今回は各種の咬合について咀嚼を中心に、歯科医・歯科技工士・歯科衛生士それぞれに必要な見方や技術・方法についてすこしだけ解説を加えてみようとおもっている。
平成28年11月6日 第6回愛知学院ポストグラデュエートが開催されました。講師に日本歯科大学名誉教授 丸茂義二先生をお招きし、「満足の得られる咀嚼を目指して」-咀嚼と咬合の真実―という演題で講演いただきました。丸茂先生には、ここ数年、毎年講演いただいておりますが今回も220名程の参加がありました。先生の講演の特徴として歯科医師だけでなく、歯科技工士、歯科衛生士の参加が多いということがあり、今回もそれぞれ多数の参加者がありました。まず、演題の「満足の得られる咀嚼」の「満足」とは歯科医師でも歯科技工士でもなく患者の満足が一番であるとの確認に始まり、咬合の役割については咀嚼の実行器官だけではなく身体骨格的機能(骨格の一部として生体との相互作用)咀嚼嚥下機能(消化管の一部としての消化器としての役割)発音表情機能(社会との接点におけるインターフェイス)顎関節保護機能(咀嚼部品の外界からの保護機能)などがあると述べられました。また、西洋と東洋の違いについて肉や牛乳を食べてきた西洋人と米を主食としてきた東洋人との咬合様式の違いやこれまで欧米や日本で展開されてきた咬合論の歴史にも触れられました。Chopper型の西洋人の咬合様式に対する治療をGrinder型の多い日本人に行っても効果が低いと述べられたことには説得力がありました。次の咀嚼の役割についてはChopper型とGrinder型の咬合様式の機能の違いや経年的変化について話されました。そして重要な概念として「正しい咀嚼運動が正しい歯列形成と咬合接触・咬合様式を生み出す」ということも示されました。咀嚼の目的の部分では消化には機械的消化と化学的消化と生物的消化があること、咀嚼には機械的消化とアミラーゼによる化学的消化を担う役割があり重要である意味を教えていただきました。更に話は糖尿病予防、ダイエットの話になり、炭水化物制限より多咀嚼による過食防止の効果、舌挙上装置SLPの有用性にも及びました。Grindig咀嚼の優位性を様々な症例で具体的に示されたことも印象に残っております。ユーモア溢れる先生の語り口で難しい内容でありながらも6時間の講演が短く感じられた一日でした。