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第9回無料講演

〈同窓会本部主催〉歯科臨床40年の軌跡
-長期経過症例から何を学ぶか-

●日時:平成29年3月12日(日)9:30~17:00
●講師:斉藤  佳雄

講師からのメッセージ

若き歯科医へ
5 年後、10 年後に、この症例がどのような結果になっているだろうかというようなことは、考えてもいなかった。毎日が、目の前の症例に、今持てるだけのわずかな知識と技術を総動員しての日々で、診療後は、インレー、クラウン、ブリッジ、焼付にまでも取り組んで、地下鉄の最終便に間に合わない日々を過ごしていた。
開業後の数年は、自分の大切な場としての診療室が生活のすべてで、家庭も子供も省みることなく、それでも熱い充実した時期であったと思っている。
限られた、歯科医としての人生が、平均的には40 年とするならば、今、どのあたりを走っているかという時間の流れの中で、自らの生き方をとらえてみると興味深い。
人生には、人それぞれにさまざまな生き方がある。私たちは歯科医として、どのような人生の道を進んでいくのだろうか。ふと気がつくと、何も考えずに過ごしてしまった刻ときの長さに、心を痛めている。
これから続く若き歯科医の皆さんは、熱き、情熱に満ちた時間を、出来るだけ長く、多く体験していただきたいと思っている。
今回は、開業初期の臨床例の中から、天然歯をどこまで保存できるか、歯を抜かず、削らず、歯の神経を守る歯科医療について、出来るだけ長期の経過症例についてご報告させていただきます。

講演内容

  1. 歯を守る歯科医療(Ⅰ)
    ・歯科医療と全身疾患との関わり
    ・最小の治療行為で最大の効果を
    ・Brushing の威力
    ・一本の歯を守る・天然歯pontic の臨床応用
  2. 歯髄を守る-歯質・歯髄の保存
    ・歯髄保存の限界(診査・診断を含めて)
    ・歯髄保護の術式(抗菌的歯髄保存療法)深いカリエスから歯髄を守る(無麻酔)
    ・生活歯の修復法(歯髄を守るために、生活歯の切削を最小限におさえる)
    ・天然歯(抜去歯)応用ポンティック
  3. 私の臨床ノートから
    ・自己研鑽
    ・自らの症例の中から骨の再生を知る
    ・provitional restration
    ・いろいろなEndo を試みた中から -長期の臨床例40 年間の経過-
    ・コーヌスクローネの臨床応用
  4. 歯を守る歯科医療(Ⅱ)
    ・歯根挺出法(矯正的・外科的・自然挺出法)
    ・破折歯根の接着再殖保存法
    ・外傷歯冠破折露髄歯の歯髄保存
    ・人に自然は造れない・自然は天然歯
  5. 総合臨床を語る
    - Endo・perio から矯正・挺出・移植・補綴治療を含む総合臨床症例-

略歴

1972年 3月
愛知学院大学歯学部歯学科 卒業
歯科補綴賞[BIO-BLEND賞]受賞
1972年 4月
愛知学院大学歯学部 第一口腔外科 入局 助手
1975年11月
名古屋市千種区にて開業
1984年 4月
名古屋市千種区歯科医師会
 理事
 副会長
1990年 1月
歯学博士 学位取得 (歯乙第180号)
『 低タンパク血漿のラット頭蓋骨及び歯の発育に及ぼす影響』
1991年 4月
愛知学院大学歯学部同窓会
 常務理事
 副会長
1993年 4月
愛知学院大学歯学部同窓会
ポストグラデュエートコース実行委員長
1994年 4月
愛知県歯科医師会
 学術部 次長
 調査室 次長
 選挙管理委員会 委員長
2003年 4月
日本歯科医師会 学術・生涯研修委員会 委員
2005年 4月
愛知県国保連合会 審査委員
愛知県歯科医師国保組合 副理事長
愛知県歯科医師会 会務運営委員会 委員長
2008年 6月
愛知県歯科医師会 会館建設検討委員会 副委員長
2009年 4月
愛知県歯科医師国保組合 理事長Ⅰ期
2010年 7月
全国歯科医師国民健康保険組合連合会(全歯連)
特定歯科検診 検討委員会 委員
2011年 4月
愛知県歯科医師国保組合 理事長Ⅱ期
全国国民健康保険組合協会(全協) 常務理事
全国国民健康保険組合協会(全協) 中部支部 支部長
2013年 4月
愛知県歯科医師国保組合 理事長Ⅲ期
愛知県国保連合会 専任審査委員
愛知学院大学歯学部同窓会 相談役

最近の文献

  1. 斉藤佳雄:若き歯科医へ21 世紀の歯学〈その14〉歯科人生をどう切り開くか。日本歯科評論 No605;P101-116、1994
  2. 斉藤佳雄;破折歯根への対応 skill up of Dental Practice 1.歯を守る、P178-183、P192-197 医歯薬出版、東京、2002.
  3. 斉藤佳雄;深いカリエス-歯髄を守る-;臨床歯科医のステップアップ研修(1)リスクを持つ歯へのアプローチ 宮地建夫編、P1 ~ P18 ヒョーロン・パブリッシャーズ、東京、2005.

講演後記

平成29年3月12日(日)に同窓会本部主催で全ての歯科医療関者・特に若き歯科医師を対象にした講演会が開催されました。講師に愛知県名古屋市ご開業の斉藤佳雄先生をお招きして「歯科臨床40年の軌跡」- 長期症例から何を学ぶか – という演題でご講演頂きました。

午前の部ではメタボリック症候群によって高血圧、肥満、高脂血症、高血糖につながるメタボリック・ドミノの中で、源流となるう蝕や歯周病を治療することによりドミノ倒しを予防する、言い換えれば「歯を守ることは全身の健康を守る第一歩である」というお話から始まりました。

さらに糖尿病、脳梗塞などの全身疾患を抱えた患者の症例を通して口腔ケアの重要さを強調され、歯科衛生士にとって「これらの患者が自分自身で良好な口腔状態を維持出来る様になるためのサポートすること」すなわち「患者自身に自分で治すことが出来ると実感させること」にやりがいを見出すことこそが重要であるとお話されました。また患者の自然治癒能力を引き出すことが歯科医療の神髄であることを背景に多くの臨床例を通してブラッシングの威力を中心に原因除去療法の重要性にも触れて頂きました。

一方、修復治療においては欠損部を隣在歯と接着した天然歯(抜去歯)を応用したポンティックの症例を題材に長期症例から天然歯の切削を最小限に抑えることの重要性を示されました。エンド治療においては治療法の変遷に触れながら40年の長期経過を中心にその当時の治療を振り返って頂きました。

午後の部では難症例のエンド治療を約10年間経過観察した後、最終補綴に移行した症例など、一本の歯を残すために努力を惜しまない歯科医師としてあるべき姿に感銘を受けました。さらに10年以上の長期症例から裏付けされた歯根挺出法(矯正的、外科的、自然)や破折歯根の接着・再植保存法、歯の移植の優位性は非常に説得力のあるお話でした。

最後には臨床の記録を撮ることや症例報告を通して自己研鑽することの重要性や「自らの症例を通して臨床を学ぶことの意義」についてのメッセージを受講者に伝えて頂きました。 本講演を通して様々な患者背景を含めた長期症例を通して「新患ではなく医院に通い続ける旧患を増やすことが重要」「多くの旧患によって歯科医院は支えられている」と強調されたことが心に響きました。貴重なご講演を賜りました斉藤佳雄先生に深く御礼申し上げます。