現代人の生活習慣病と高齢者の肺炎の発症原因を突き詰めると調理にたどり着きます(引用1)。高分子のデンプンやタンパク質は味を呈しませんが、煮炊きや酵素で分解して低分子化すると甘みやうま味を発現します。食肉に含まれる脂肪は室温では固形で、味を呈しませんが、加熱すると脂味を発現します。油脂は、舌の奥に油脂を化学受容する仕組みがあり、舌咽神経を介して脳を興奮させるそうです。すぐれた調理技術により、美味しい食事を楽しむことができますが、その代償として現代人は肥満によるメタボリック・ドミノに苦しむようになりました。口腔では加工食材を人間が摂取する前に口腔細菌が積極的に取り込み、齲蝕・歯周病とその関連疾患を発症させています。
さらに、口腔細菌が嚥下によって唾液とともに腸管に流れ込み炎症性腸疾患の発症を誘発することが報告されています(引用2)。また、歯周病菌が腸内細菌叢を変化させ、腸管免疫をTh17優勢な応答にシフトさせることにより関節炎など自己免疫疾患を増悪させるメカニズムも報告されています(引用3)。
おいしい食事は、口腔細菌の異常増殖を招き、更に腸管の健康にも悪影響を与え、様々な生活習慣病の発症に関わっているようです。このことから、生活習慣病を発症させるメタボリック・ドミノのそもそもの原因(ドミノの最上流)に食事の因子と口腔細菌の因子が存在することが明らかになってきました。これからの歯科医師は、このことを理解して、特定保健指導や地域包括ケアシステムに積極的に取り組む必要があると思われます。
引用文献:
1)ダニエル・リーバーマン著、人体600万年史: 科学が明かす進化・健康・疾病、ハヤカワ・ノンフィクション文庫、早川書房、東京、2015年
2)Atarashi K et al. Ectopic colonization of oral bacteria in the intestine drives
Th-1 cell induction and inflammation. Science. 2017; 358(6361):359-365.
3)Sato K et al. Aggravation of collagen-induced arthritis by orally administered Porphyromonas gingivalis through modulation of the gut microbiota and gut immune system. Sci Rep. 2017; 7(1):6955.
この間、健康日本21計画策定委員、内閣府消費者委員会委員、内閣府新健康フロンティア戦略賢人会議専門委員、九州大学教授(厚生労働省併任)、日本歯科医学会学術委員長を務める
日本口腔衛生学会指導医、日本歯科大学歯学部客員教授、明海大学歯学部客員教授、東京理科大学光触媒国際研究センター客員教授、非常勤講師(東京医科歯科大学、長崎大学、新潟大学)