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第1回講演

呼吸とオーラルフレイル

●日時:2019年5月6日(月・祝)9:30~17:00
●講師:丸茂 義二

講師からのメッセージ

総義歯だけではないが、補綴とは【欠損した歯と歯周組織と顎堤を補って正常な機能を営ませる】ものである。この概念が補綴成功の重要な鍵を示している。多くの欠損は顎堤の欠損を伴っているが、この顎堤の欠損を正常な形にすることが補綴物の機能を向上させるだけではなく身体のバランスに重要であった。顎堤にチタンを立てて咬合だけを再建しようとしても顎堤は再現されていない為に舌の行方が定まらない。矯正も歯列形態の偏りを作ると舌の行方が定まらない。欧米人のようなChopperが良いとする概念は最後退位での概念で、咀嚼時に舌が機能してないことを前提とした咬合であるから、最後退位で咬合の要求が異常に高い患者を作ることになる。舌が正常な口蓋形態を再現することによって顎位も頭位も誘導する力を持つことが、味覚から呼吸・歩行など老人になると衰えるのが当然と思われていることを覆す。世の中では残存歯が多いほど老人化していないと言われるのは口蓋形態が喪失してないからである。呼吸の出来ない子供がゲームをし、超高齢社会に顎堤の減少した老人がよろよろ歩いている。歯科医も歯科技工士も歯科衛生士も一丸となってこの悪しき状態を改善することが可能になり、広く社会に貢献できる未来図がある。

総義歯だけではなく局部床義歯は舌の位置に大きな影響を与え、その人の呼吸や歩行能力に影響を与える。正しく作られた構造とは何か。呼吸機能を阻害しないということよりも、呼吸機能を補佐出来る補綴物の設計とは何かを具体的に述べたいと思う。そして舌にとって正しい構造が歩行機能を高めてくれるところもお話しする予定である.本コースでは人生の最初と終焉を輝かせる舌機能にアプローチする形態的機能的構造についてお話しをし、いかに呼吸とオーラルフレイルは歯科の分野の仕事であるかという事を補綴専門医として解説する予定である。

講演内容

  1. 義歯の咬合調整の大変さから開放される歯科技工士の秘技【咬合性外傷担当】
  2. 生まれてから死ぬまで舌を制御する歯科衛生士の視点【顎機能・舌癖と咀嚼担当】
  3. 歯科衛生士は呼吸管理を通じて循環管理の役目がある【歯列不正予防・歯周炎担当】
  4. 超高齢化社会では義歯製作時の重点は印象採得よりも研磨面の技工で頭位を制御
  5. 咬合採得の顎位でアペックス義歯は呼吸もGrinding も止める悪い影響力がある
  6. 欧米型を乗り越える日本式の総義歯はオーラルフレイルを乗り切る前方重心を作る
  7. 誤嚥もクレンチングもない顎堤を保護する総義歯とは後退位にさせない義歯である
  8. 育児・義歯・矯正の満足度を決める①歯科衛生士②歯科技工士③歯科医の順位と役割
  9. 若年者から高齢者も咀嚼力低下呼吸力低下をSPP 義歯・SPP リテーナー・SPP で救う

略歴

1980年
日本歯科大学卒業、日本歯科大学大学院歯学研究科補綴学専攻
1984年
歯学博士取得、日本歯科大学補綴学第二講座助手
1988年
日本歯科大学補綴学教室講師
2001年
日本歯科大学付属病院顎関節症診療センター初代センター長
2004年
日本歯科大学付属病院助教授
2005年
日本歯科大学東京短期大学教授
2010年
日本歯科大学名誉教授

講演後記

令和元年5月6日 第1回愛知学院ポストグラデュエートが開催されました。講師に日本歯科大学名誉教授 丸茂義二先生をお招きし、「呼吸とオーラルフレイル」という演題で講演いただきました。丸茂先生には、ここ数年、毎年講演いただいておりますが今回も250名程度の参加がありました。先生の講演の特徴として歯科医師だけでなく、歯科技工士、歯科衛生士の参加が多いということがあり、今回もそれぞれ多数の参加者がありました。

気道を拡張することで呼吸が楽になるという仮説はAirwayOrthodonticsという古い考え方に基づくものです。気道の狭窄と呼吸機能の低下は因果関係ではなく、両者ともある現象の結果にしか過ぎません。
気道狭窄が起きたり歯列狭窄や歯列不正が起きやすいのはGrindingすることが出来ない為です。
生後から乳房哺乳をしている時には原始反射と言われる舌の挙上とそれに付随する直筋系の活性化が自然に行われています。

母乳から離乳に従って呼吸系の内環境として筋訓練が行われて外環境としての胸郭拡張の初期段階が形成されます。その後にはずり這いからハイハイへ移行し、高ばいまで胸郭を拡張することと呼吸系の訓練が同時に行われます。肺胞が完成せずに胸郭を育成してはいけません。

ハイハイを十分にしないうちに立ってしまうのは乳房哺乳を早期に切り上げたことに加え離乳食を大人食の真似事などの選択に間違った場合があります。睡眠時無呼吸の芽は胎児の時に始まっています。歯列不正や咬合異常になる子供ほど耳が後転しています。耳の後転を理解しなくてはいけません。

西洋人は耳が後転しているのが平均値ですがそれは正常値ではありません。舌骨の低位がもたらす舌の低位があってもMFTでは解決が出来ないのは理由があります。また口唇の無力化も開咬も口ポカも咬合力の低いのも同根です。SPP(SuperParabolaPlate)装着でその根源は瞬時に変わります。そしてDOHaDの概念を理解することで多くの歯科的問題点が見えて来ます。

生後の育児の各Stageがもれなく遂行できればSPPは不要です。過ぎてから応用出来る装置として、それぞれの分野で大きな貢献が出来るものです。
今後の歯科医療が以下の大きな変化に対応すべく質的な変化を企図しなかったら完全な敗北です。
超高齢化による顎堤吸収増大、歯周疾患の進行した後の凹凸無歯顎堤、歯列狭窄による口蓋形態の不良、顎偏位の影響で顎堤の左右非対称化、不良義歯による顎堤形態の異常、義歯の不使用による廃用性萎縮、インプラント後の超吸収顎堤、Clenchingによる義歯の食い込み吸収

これらの条件は多くが舌の機能にとって悪い環境であると言えます。従ってこれらの問題を暫定的と雖も他に変わることのないSPP構造を付与することが当面の解決策であり、歯科医療の範疇を超えて身体機能を改善する方法です。
一日の講演で人生の最初と終焉を輝かせる舌機能にアプローチする形態的機能的構造についてのお話しをユーモア溢れる語り口で呼吸とオーラルフレイルは歯科の分野の仕事であるかという事を解説して頂きました。