●日時:2022年9月4日(日)13:30~16:30
●講師:天野 敦雄 氏
削って詰めたからう蝕は治った。歯周ポケットが3ミリになったから歯周病は治った。そうでしょうか?むし歯菌も歯周病菌も口腔常在菌です。常在菌を追い出すことはできません。だからう蝕と歯周病に完治はありません。しかし、この2つの病気の予防と治療は可能です。病気の予防と治療の目的は病因の除去です。何を除去したらいいのでしょう、原因菌ではありません。最新の病因論をお話しします。
令和4年9月4日(日)今年度第1回のPGC講演会が開催されました。講師には大阪大学歯学部研究科、予防歯科学教授、天野敦雄先生をお招きし、愛知学院大学歯学部楠元キャンパスにおいて実出席とWeb受講によるハイブリッド開催でした。
午前中は歯科衛生士向けに「マイ・ハイジニスト必聴 患者も主治医にするための知識・技術・指導」という演題での講演でした。
健口を守るマイ・ハイジニストの仕事は、バイオフィルム管理ということで、まず現在のう蝕の病因論から説明されました。う蝕は発酵性糖質が原因でバイオフィルムが高病原化することで発症する。これは歯周病発症の原因にも共通し、dysbiosis(ディスバイアシス)という。そして、う蝕については食後すぐdysbiosisが起こり臨界pHを超えるので歯磨きは食後すぐやるのが正解であること。さらにフッ化物の応用が有効なこと、これには高濃度NaF(9000ppm)でガツンと一発、エナメル質の強化を行い、コツコツ毎日、歯磨剤のNaF(500~1450ppm)でフッ素補充するのが良い。フッ化物の応用は根面う蝕に対しても有効だ、と話されました。
次の歯周病の原因論では歯肉縁下バイオフィルムの細菌ピラミッドのでき方、レッドコンプレックスの中でも最強の歯周病菌、Pg菌についてご教授いただきました。Pg菌はタンパク質と鉄分が大好物で、血液があると増殖、高病原化する。従って歯周病治療の目標は出血を止めることだと言われました。
歯科衛生士はバイオフィルムの病原性を見分け、その人に合ったブラッシング指導をすべきであり、SRPの技術も磨く必要がある、と言われ「あまの式」SRPも教えていただきました。
最後に歯科衛生士が患者さんとニ人三脚で、その人の健口を守っていくためには、病状を納得させる説明力と結果を残せる技術、それを実現できる歯科医院システムの構築が必要であると述べられました。
午後は歯科医師向けの内容で「取り除く病院は何か『令和のカリオロジー&ペリオドントロジー』」という演題でした。
昭和の時代、患者は、むし歯と歯周病は治る病気、歯医者は痛くなったら行く所と教えられていたが、いずれも口腔内の常在菌が原因で追い出すことはできないのだから患者にはむし歯と歯周病は完治しない病気、歯医者は痛くならないために行く所だと患者に伝えよう!とユーモアたっぷりの口調で話を始められました。
う蝕と歯周病の病因論については午前中と同様に話された後、近年増えている子供の口呼吸について懸念を示され、現状の説明、その弊害やそれを防ぐための子育て法についてまで言及されました。
更に健口は命を支えているので健康寿命を伸ばすこと、つまりしあわせ寿命を伸ばすことにつながる、という所から「幸せは自給自足」というお話になりました。
幸せは「青い鳥」のように身近に居る、幸せを感じるのは脳だから、幸せホルモンの分泌を増やして幸せになりましょう、そのために有効なのが腸内細菌の働き。
腸内細菌叢は第6の臓器と言われ、善玉菌が短鎖脂肪酸を排泄、これが脳の幸せホルモンを増やす。特に日本人は良い腸内細菌叢を持っているのでこれを生かさない手はない。腸内細菌を増やすには、その餌となる「食物繊維とオリゴ糖」を摂りましょう。ということで食物繊維を豊富に含む食材の紹介、食物繊維を超えるレジスタントスターチβ-デンプン、どのオリゴ糖がいいか先生の体験を踏まえ教えていただきました。
幸せホルモンにはドーパミン、セロトニン、オキシトシンがあり、それぞれの違いや分泌を促進する方法など具体的に話していただきました。
むし歯や歯周病の病因論など先生の講義で何度かお聴きした内容に加え、幸せにつながる腸内細菌のすごい働きなど新鮮な興味深いお話が聴け、充実した講演会でした。