PGC.journal

第4回講演

そのテクニック、在宅治療でも使えるかも!!

義歯調整のポイント
-トラブルの診断と解決方法-

●日時:2022年12月11日(日)9:30~12:30
●講師:木本 統

講師からのメッセージ

超高齢化社会の中、社会のニーズに答えるべく義歯に関する講習会が増えてきました。講習会のタイトルを眺めてみると、義歯作製時のテクニックに重きを置いた講演が主流です。しかしながら、義歯製作方法に関わるテクニックは、実際の治療をお見せしなければなかなか伝わらないのではと思います。
そこで、今回は義歯調整のポイント(トラブルの診断と解決方法)について講演させていただきます。数多くの義歯製作方法を勉強しても、先生方が最終的にお悩みになるのは圧倒的に装着後の調整方法だと思います。様々な講習会で多くの著明な先生の手技を学んで義歯を製作しても、調整無しに義歯を使えるようになる事はほぼありません。また義歯のトラブルを解決できる能力は、良い義歯を創る能力の裏返しになります。例えば、「入れ歯が落ちてくる」との訴えを確実に解決できる能力があれば、落ちない入れ歯を作ることができる。「痛い」との訴えを解決できる能力があれば、痛くない入れ歯を作ることができます。義歯を創れる人は、どのような方法で製作された義歯であっても、たとえ、それが見ず知らずの先生がお作りになった義歯であっても患者さんの悩みの原因を突き止め修正することができます。
患者さんの悩みの原因を突き止め修正するには大きく分けると2つの能力が必要となります。1つ目が、トラブルの原因に対する診断力です。そして2つ目が解決するための技術力です。診断の第一歩は患者さんが発信する言葉を聞き取り、補綴学的に解釈する事から始まります。患者さんの言葉は千差万別です。しかしながら、この言葉の真意を突き止める事なしにトラブルの解決はありません。ここで難しいのが、患者さんが訴えるトラブルは間違いなく患者さんに内在するのですが、患者さんの表現が常に正しいとは限らない事です。患者さんが痛いと指さす場所と、実際に痛みの原因となる場所は25%しか一致しないとの報告もあります。すなわち、患者さんの言葉を鵜呑みにすると75%は間違ったところを調整してしまうと言うことです。例えば、上顎義歯の頬側フレンジが厚すぎた場合、開口時や側方運動時に筋突起が衝突し痛みや違和感が出ます。この時筋突起は下顎に存在しますので、「先生、ご飯を食べると下あごが痛みます」と患者さんが訴える事があります。下顎を診査しても傷がない。この時、患者さんの痛むという言葉の中に、筋突起の当たりによる痛みを思い浮かべるか否かが勝負の分かれ目になります。それでは、「先生、調整をすると痛みが無くなるのですが、3日経つとまた痛くなり、それを繰り返してきました。」と初診時に訴えた場合、何を疑えば良いのでしょう?答えは講演の中でお話しさせて頂きます。
今回の講演で、受講者の先生方に患者さんに生じるトラブルが義歯製作中のどの過程のミスに起因するのか、そしてミスを起こさないための義歯製作の基本事項(印象採得、咬合採得、排列、調整方法の基本)を学んで頂ければ幸甚です。

講演内容

  1. 痛みについて
    ①咬合採得が原因
    排列が原因
    義歯床縁形態が原因
    顎堤条件が原因
    咬合高径の過高が原因
  2. 下顎義歯が浮く
    義歯形態が原因
    排列が原因(排列の5つの限界)
    患者の悪習癖が原因
  3. 上顎義歯が落ちる
    義歯床の形態不良が原因
    排列が原因(片側性咬合平衡と両側性咬合平衡の臨床的意義)
    顎堤の問題(フラビーガムの対処方法)
  4. 義歯が割れる
  5. 頬・舌を咬む
  6. 上手く発音できない
  7. 義歯装着後のマネージメント
  8. 私の研究について

略歴

1986年
日本大学松戸歯学部卒業
1994年
日本大学松戸歯学部 補綴学第Ⅰ講座助手
2003年
学位(歯学博士)取得 日本大学松戸歯学部補綴学 第Ⅰ講座講師(専任扱)
2005年
カナダ·McGill大学 歯学部客員教授
2007年
日本大学松戸歯学部 顎口腔義歯リハビリテーション学講座 専任講師
2015年
日本大学松戸歯学部 有床義歯補綴学講座准教授
2019年
愛知学院大学歯学部 高齢者・在宅歯科医療学講座教授

最近の文献

  1. Furuya Y, Kimoto S, Furuse N, Igarashi K, Furokawa S, Kawai Y: Effectiveness of silicone-based resilient denture liners on masticatory function: A randomised controlled trial. J Dent, 109(103657,2021.
  2. Furuya Y, Kimoto S, Furuse N, Furokawa S, Igarashi K, Suzuki A, Kawai Y: Effectiveness of silicone-based resilient denture liners on the patient-reported chewing ability: A randomized controlled trial. J Prosthodont Res, advpub(2021).
  3. Furokawa S, Kimoto S, Furuse N, Furuya Y, Ogawa T, Nakashima Y, Okubo M, Yamaguchi H, Kawai Y: The effects of silicone-based resilient denture liners on pain: A randomized controlled trial. J Prosthodont Res, 64(4):417-423,2020.
  4. Kimoto S, Furuse N, Ogawa T, Nakashima Y, Furokawa S, Okubo M, Yamaguchi H, Kawai Y: Receptivity of the mandible versus the maxilla to external stimuli in patients with complete dentures. J Prosthodont Res, 63(3):299-302,2019.
  5. Furuse N, Kimoto S, Nakashima Y, Ogawa T, Furokawa S, Okubo M, Yamaguchi H, Kawai Y: Verification of the reliability of current perception threshold and pain threshold testing by application of an electrical current stimulus to mandibular mucosa in young adults. J Oral Rehabil, 46(6):556-562,2019.