日本人の追跡調査から、ほぼ全ての人が期間の長短は別にして自立した生活が困難な時期を過ごすことがわかっています。すなわち、歯科医院に来院してくれている患者はほぼ全て通院不可能になります。「生活の医療」と歯科医療は形容されます。ならば、生活の場で医療をやってこそ生活の医療と言えるのではないでしょうか?体調を崩して診療室に来られなくなった患者さんに、良かったらおうちに行きますよと言ってあげてください。
患者さんは家で暮らしています。住み慣れた家で、家族の思い出と伴に暮らしています。多くの歯科医は自分をかかりつけと思ってくれている患者さんたちに支えられているともいえます。お家での歯科医療はできることが限られています。でも、ちょっとした処置で患者さんは苦痛から開放され、食べる楽しみを取り戻します。歯科医師として人生の先輩たちのその終末のステージに立ち会えることは、歯科医師冥利に尽きるものです。お家に行きましょう、自分を支えてくれた患者さんのために。
平成29年12月10日、第5回講演会が開催されました。講師に菊谷武先生をお招きし、「増える歯科難民を救う」—トップランナーが語る訪問診療のコツとツボ−という演題でご講演を賜りました。
菊谷先生は、日本歯科大学口腔リハビリテーション科にて、摂食・嚥下の障害・言語の障害のある方々の機能維持・回復を目指してリハビリテーションを行われています。大学職員としての、教育・指導にとどまらず、地域包括ケアの一員として、もっと参加されたいというお気持ちから、多摩クリニックを経営され、クリニック内では、リハビリテーション以外にも栄養士による介護食教室・患者様がご家族と共に楽しめる胃ろうレストランなどのイベントを開催されるなど、豊かな食生活への情報発信を行ってみえます。
日々の診療で、特に重要な事は、要介護状態に陥る前、フレイルの段階で早期発見・対処すること。通院されている間に外科処置やカリエス処置・補綴など先延ばしにしないで治療しておく事が今後在宅診療に移行した際スムーズに口腔機能維持につとめられる。また咬合支持の崩壊は認知症発症リスクを高め、専門的口腔ケアは重症化を防ぐことに役立つ。咀嚼力は、現在歯数・舌運動機能と関連し加齢と伴に低下するため、在宅高齢者の8割は低栄養であり咬合崩壊群では3、19倍高く、オーラル・フレイルは、身体的フレイルや死亡のリスクと強く関連しています。
その中でも舌圧の低値を示す者は生存予後が悪くなるため、咀嚼機能に合わせた食形態を指導する事が私達にとって重要だと理解しました。低栄養や窒息予防するためにも、舌圧向上訓練などの間接療法の訓練も取り入れていく必要があります。日々の臨床にすぐに役立つ盛りだくさんの内容の講演で貴重な機会を与えてくださった菊谷先生に感謝申し上げます。